どうでもいいこと

また歯医者に行った。治っていなかった。一度ふさいだ穴をもう一度掘っていて、やるせない気持ちになった。また埋めていた。
待合室で記憶について考えていた。どうでもいい事を覚えなくなった事に気がついた。目の前にあったマスコットが二ヶ月前に来たときにあったのかなかったのかが分からなかった。
五歳くらいの時風呂上りに父親に両手を持ってぐるぐる回されていて、肩が脱臼し、連れて行かされた小さな病院の待合室を、ソファーの配置、クリーム色の壁、リノリウムの床を思い出していた。暗いニスの色の木枠の窓の中から看護婦のおばさんの顔が覗いたことを。
あの時なら間違いなく分かっただろう。編集も解釈もせずに、個物をそのまま覚えていた。
だけどもうそんな効率の悪いことはしないようになった。どうでもいいことだ。ほとんどすべてがどうでもいい。