両替ブーム

別の書き物のなかで思い出してそこに書くこともできないのでここに書く。昔小学校の頃近所に個人経営の小さいスーパーがあった。隣がすぐ畑の田舎なところだ。ぽつんと商店があって、周りが分譲住宅ですこしづつ埋まっていった、という感じで、古い店構えだった。

おかみさんとその息子が二人だけで働いていた。息子のほうが30か40くらいだった。と思っていたんだけど、今考えると年の差のある夫婦だったのかもしれない。二人ともとてもよく似た顔をしていた。

その息子の方はいつも店番をしていて、レジができるくらいの人だったが、おそらく知恵遅れだった。すくなくとも小学生たちにはそうみなされていた。まあ、結果としてレジはできない人だったわけだが。

あるとき、あのおっちゃんおもちゃのお金持ってくと本物と替えてくれるぜ、と子どもたちのうちの誰かが言った。まじかよ。ぼくたちは興奮した。

その日か次の日のうちにほぼ全員が家の中からおもちゃの小銭を持っていって彼で試していた。噂は本当だった。

ただし、おもちゃの硬貨じゃなきゃだめ。紙幣は受け付けなかった。本物っぽくないとだめ。赤い成型色のプラスティックの10円はだめだった。

おもちゃはたいてい本物より2割くらい小さかった。それに銀塗装がされていると確実だった。

小さい50円玉のおもちゃを持ってレジに行ってそれを見せびらかすと、いいね、取り替えない?と向こうから言ってきた。

近くの駄菓子屋で500円玉が複数枚入ったおままごとセットが発見され、バランスが崩れたんだっただろうか。おかみさんに現場を押さえられたのだろうか。ブームの終わり方を覚えていない。衝撃や罪悪感のあまり記憶を封じ込めたのだろうか。