一生使わない知識

小学校の時、色々なところで色んな人と遊んだ。ある工場か倉庫か民家の脇に、空きダンボールが積み上げられていて、ある友人が、そこにナイフを刺す練習をしていた。突き刺した瞬間に90度ひねって抜いていた。ウッドチャネル(傷口)を広げる事の重要さを教えてくれた。助け鬼の最中に。
出血量よりも空気が入ることのほうが致命的だと。
最初にナイフの刃を水平にするのは肋骨の隙間に入れるためだと。
ひどい中二病だ。小学三年生位だったのに彼はなんであんな事を知っていたんだろう。たしか人を殴るときの拳の握り方も彼に教えてもらった気がする。彼はまったく喧嘩はしないタイプなのに。
転校して中学生になって、その彼が作った同人誌をたまたま発見したことがあった。即売会で彼に会った記憶はなく、奥付で気づいた。狭い町だ。
人を実際に刺す人になるのではなく、ある意味で昇華していた。一生使わない、使いそうにない知識は、有効に使われていた。
今彼がどうしているかは知らない。